上腕二頭筋長頭

基本情報

起始肩甲骨関節上結節、上方関節唇①
停止橈骨粗面、前腕屈筋腱膜①
支配神経筋皮神経①
髄節レベルC5・C6①
作用肩甲上腕関節屈曲・外転・内旋、肘関節屈曲、前腕回外①

関連情報

・上腕二頭筋長頭腱は結節間溝を通過後、関節内に進入する。 ②

・関節内に進入した長頭腱は、烏口上腕靱帯の下方で棘上筋肩甲下筋の間(腱板疎部)を走行し、関節上結節と上方関節唇に付着する。 ②

・上腕二頭筋の短頭は烏口腕筋と合流し、共同腱として烏口突起に付着する。 ②

・上腕二頭筋腱は近位へ向かうにつれて筋肉内へ広がり、幅広い筋内腱となる。筋線維は筋内腱に対して深部、浅部の関係で羽状構造をとる。 ②

・上腕二頭筋は肩関節、肘関節をまたぐ二関節筋であり、双方の関節運動に関与する。 ②

・上腕二頭筋の肩関節に及ぼす作用は、肩関節下垂位では90°外転位では水平屈曲に作用する。 ②

・上腕二頭筋は肘関節における強力な屈筋であるとともに、前腕の強力な回外筋である。 ②

・上腕二頭筋の長頭は、上方関節唇を持ち上げることで骨頭の上方移動を抑え、肩甲上腕関節の安定に寄与している。 ②

・上腕二頭筋長頭は、結節間溝内を滑走し、特に外旋位での緊張が増加する。この腱の緊張は骨頭の求心性を高め、肩甲上腕関節の安定化に寄与する。 ②

・前腕の回外には上腕二頭筋と回外筋が関与するが、肘関節屈曲位では上腕二頭筋は弛緩し、このときの回外は主に回外筋により行われる。 ②

・肩関節周囲炎の病態の一つに上腕二頭筋長頭腱炎がある。 ②

上腕二頭筋長頭腱炎に対する有名な徒手検査にヤーガソンテストがある。 ②

上腕二頭筋長頭腱による強力な牽引力や骨頭による剪断力によって、肩上方関節唇損傷(SLAP lesion)が生じる。 ②

・上腕二頭筋長頭腱断裂では、肘関節を屈曲したときの上腕二頭筋の膨隆が遠位へ変位する特徴的な所見がみられる。 ②

・上腕二頭筋長頭腱炎、肩上方関節唇損傷(SLAP lesion)、上腕二頭筋長頭腱断裂、上腕二頭筋長頭腱脱臼など。②

・perryらは筋電図を用いて、肩関節屈曲、外転の全可動域において腱板、三角筋が活動することが明らかにした。④またwilkらは腱板、三角筋、上腕二頭筋長頭が上腕骨頭を関節窩に圧縮させることで肩甲上腕関節の安定を保っていると結論付けた。⑤

・関節唇には関節包靱帯や上腕二頭筋長頭腱などの組織が付着する。上腕二頭筋長頭腱-関節唇連結部には可動性があり。この可動性が肩甲上腕関節の安定性に寄与する。⑥すなわち、上腕二頭筋が収縮することにより、長頭の付着部である関節唇上部は腱を介し筋の方向に伸張され、上腕骨頭情報を覆うように変形し、骨頭の関節窩への圧迫力を高め、上腕骨頭の上方変位を制動する。⑦

・上腕二頭筋長頭腱・関節唇複合体損傷は、andrewsらが1985年に最初に記述し、73例の関節鏡所見により関節唇損傷の大部分は上腕二頭筋長頭腱の関節窩付着部(起始部)に近い前上方部に存在すると報告した。その原因として、投球のフォロースルー相における上腕二頭筋の収縮に伴い、強力な牽引力が生じることで関節唇の剥離が起こったのではないかと考察した。⑦

・肩関節屈曲内旋時に肩甲下筋腱付着部の関節面側、あるいは上腕二頭筋長頭腱の結節間溝部が関節窩前上縁に衝突し損傷される形、Pulley lesionとも呼ばれる。投球動作におけるフォロースルー期に非投球側下肢への体重移動が不十分になることが原因の一つである。⑧

・Giphartら⑩は、肩関節外転時の上腕二頭筋長頭の筋活動は健常者で最大等尺性収縮の9.5%、上腕二頭筋長頭腱炎症例で7.9%であることを示し、同様にChalemersら⑪は健常者を対象に上肢挙上時の上腕二頭筋長頭の筋活動は4.2%~8.8%であったと報告している。これら先行研究から、上腕二頭筋長頭の機能障害により、上腕骨頭は上方・前方に変位することが明らかとなっている。ただし、上肢挙上時の上腕二頭筋長頭の筋活動は小さく、上腕二頭筋長頭腱炎症例においては上腕骨頭中心位置に健常群と差がみられなかったとの方向もあり⑩、肩関節の動的安定性に対する上腕二頭筋長頭の寄与はあまり大きくない可能性がある。⑧

・上腕二頭筋長頭腱障害に対する理学療法

上腕二頭筋長頭腱障害に対する理学療法においては、急性期では急所注射、安静、アイシングによる消炎鎮痛を行い、また上腕二頭筋の過使用や伸張ストレスを割けるように努め、上腕二頭筋長頭腱障害による動的安定性の低下が残存する場合には、肩腱板筋群のトレーニングを行っていく。⑧

・上腕二頭筋長頭は肘関節屈曲、前腕回外、肩関節屈曲・外転・内旋の作用を有することから、これらの運動は結節間溝での上腕二頭筋長頭腱の摩擦を引き起こし、炎症を助長することが考えられるため避けるべきである。また作用方向と逆向きの運動は伸張ストレスを与えるため行うべきではない。上腕二頭筋の回外方向のモーメントアームを報告した研究によると、肘関節屈曲90°、前腕回内40~60°で最もモーメントアームが高かったと報告していることからも⑫、肘関節伸展、前腕回外位で伸張ストレスが高まることが考えられる。⑧ さらに上腕二頭筋長頭は上肢挙上初期の30°まで筋活動が起こり、5ポンド(約2.7kg)の重りを持つとさらに筋活動が高まることや⑬、投球動作の加速期において上腕二頭筋長頭の筋活動が大きくなることが示されていることから⑭、これらの運動にも注意が必要である。単純な上肢挙上動作に関しては、上腕二頭筋長頭の筋活動は小さいため、⑩⑪、許容してよい運動ではないかと考えられる。⑧

・自然下垂位における上肢では通常、上腕骨内側上顆と上腕骨外側上顆を結ぶ線が肩甲骨面と類似しており、肘関節伸展位、前腕中間位となる。肩甲骨前傾が強い場合には上腕骨を相対的に外旋させたうえで、前腕を過剰に回内させることで手の位置を合わせている場合がある。⑮ この場合は前腕の回内屈筋群の過緊張だけでなく上腕二頭筋の過緊張により肘伸展制限を期待している場合も少なくない。このような場合には背臥位をとらせることで問題点がより明確になる。⑯

・肘関節の屈曲、伸展の主動作筋である上腕二頭筋、上腕三頭筋はともに二関節筋であり、どちらの筋においても効率的に筋トルクを発揮するためには、三角筋を利用して肩関節屈曲の運動と組み合わせて行うことが重要であり、肘関節の単関節運動だけでは運動効率が低下してしまう。上腕二頭筋を使用する際には三角筋後部線維上腕三頭筋を利用する際には三角筋前部線維を利用することで、二関節筋の最適な収縮速度や長さのコンロトールを補助している。⑯ 特にスポーツ動作など素早い動作や高度なパワーを要求される運動では、肩複合体は非常に重要な共同筋としての役割を有する。⑰

引用文献

①林典雄 監修,鵜飼建志 編著:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 上肢 第1版,2016

②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐上肢,2012

③福林徹 蒲田和芳 監修:肩のリハビリテーションの科学的基礎,第1版,2016

④perry j,muscle control of the shoulder.in:rowe cr,ed.,the shoulder,churchili livingstone.1988;17-34.

⑤wilk ke,arigio ca,Andrews jr.current comcepts:stabilizing structure of the glenohumeral joint.jorthop sports phys ther.1997;25:364-79.

⑥pagnani mj,deng xh,warren rf,toezili pa,o’brien sj.role of the long head of the biceps brachii in glenohumeral stability:a biomechanical study in cadavrr.j shouder elbow surg.1996;5:255-62.

⑦Andrews jr,carson wg jr,mcleon wd.glenoid labrum tears reketed to the long head of the biceps/an j sports med.1985;13:337-41.

⑧編集 甲斐義浩:肩関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2021

⑨gerber c.et al:inpimgement of the deep surface of the subscapularis tendon and the reflection pulley on the anterosuperior glenoid rim:a preliminary report.j shoulder elbow surg.9(6)483-490.2000.

⑩giphart je.et al:the long head of the biceos tendon has minimal effect on in vivo glenohumeral kinematics a biplane fluoroscopy study.am j sports med.40(1):202-212.2012.

⑪chalmers pn.et al:clenohumeral function of the long head of the biceps muscle an electromyographic analysis orthopj sports med.26(2).2014.

⑫bremer ak.et al:moment arms of forearm rotators.clin biomech(Bristol.avon).21(7)683-691.2006.

⑬levy as.et al:function of the long head of the biceps at the shoulder electromygraphic analysis j shoulder elbow surg.10(3)250-255.2001.

⑭digiovine nm.et al:an electromyographic analysis of the upper extremity in pitcing j shoulder in pitcing j shoulder elbow surg.1(1)15-25.1992.

⑮山渕光圀,ほか:結果の出せる整形外科理学療法.メジカルビュー2009.

⑯編集 坂田淳:肘関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2020

⑰neumann da:筋骨格筋キネシオロジー,第1版(嶋田智明,ほか総集編).医歯薬出版.2005

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