上腕三頭筋

上腕三頭筋長頭の基本情報

起始肩甲骨関節下結節①
停止尺骨肘頭①
支配神経橈骨神経①
髄節レベルC7・C8①
作用肩甲上腕関節伸展・内転・軽度外旋①

上腕三頭筋外側頭の基本情報

起始上腕骨近位背側面で橈骨神経溝より近位①
停止尺骨の肘頭①
支配神経橈骨神経①
髄節レベルC7・C8①
作用肘関節伸展①

上腕三頭筋内側頭の基本情報

起始上腕骨近位背側面で橈骨神経溝より遠位①
停止尺骨の肘①
支配神経橈骨神経①
髄節レベルC7・C8①
作用肘関節伸展①

関連情報

・上腕三頭筋は長頭のみ二関節筋で、その他の単関節筋である。 ②

・3つの筋は内側頭を深層に置き、これを覆い隠すように長頭と外側頭が走行している。 ②

・橈骨神経溝を境として、上腕三頭筋外側頭と内側頭との起始部が区別される。 ②

・表層側に位置する長頭と外側頭は前腕の遠位1/3あたりで互いに合し、共同腱を形成して尺骨肘頭に停止する。 ②

・内側頭の最も深層にある線維群は、そのまま肘関節後方関節包へ進入する。 ②

・関節包に停止しない線維は、長頭と外側頭により形成された共同腱に深部より合流する。 ②

・上腕三頭筋は強力な肘関節の伸展作用を有するとともに、長頭には肩関節の伸展作用も存在する。 ②

・長頭の肘関節伸展力は肩関節の影響を受ける。肩関節屈曲位では協力に作用する一方で、肩関節伸展位では起始停止が近づく肢位となるため、肘関節伸展作用が低下する。 ②

・関節筋としての機能を持つ内側頭は、肘関節伸展に伴う後方関節包の挟み込みを防止する役割がある。 ②

・投球障害肩のなかで、後方の疼痛を愁訴に来院される症例のなかに、関節下結節付近から遠位へ伸びるベネット骨棘をみることがある。 ②

・基本的には肩関節の後下部の硬さが誘因となるが、上腕三頭筋長頭の短縮も見逃してはいけない重要な要素である。 ②

・肘関節外傷後生じる屈曲の制限は、洗顔や摂食動作を大きく制限し、治療上大きな問題となる。このようなケースでは、上腕三頭筋のなかでも、内側頭の圧痛や攣縮が存在することが多く、これらの反復収縮治療は可動域獲得に大きく影響する。 ②

・肘関節の他動伸展で肘関節後方に疼痛を訴える場合、後方関節包ならびに後方脂肪体の挟み込みによる疼痛である場合が多い。このような場合には、内側頭の収縮を肘関節伸展に同期させることで症状が軽減することが多い。 ②

・肘関節伸展に伴い後方脂肪体は肘頭の侵入により機能的に変形する。このときの脂肪体は肘頭窩を越えて近位へ移動し、内側頭の深部へ入り込む。この動きを許容する内側頭の柔軟性が欠如すると、脂肪体のインピンジメントが生じる。 ②

・関連疾患:投球障害肩、外傷後肘関節拘縮、肘関節後方インピンジメント、異所性骨化、ベネット骨棘、橈骨神経麻痺など。②

・肘関節後方には上腕三頭筋と肘筋が存在する。上腕三頭筋内側頭の腱は、表層で肘頭内側端に真っ直ぐ付着する。③ 内側頭は深層で長頭とともに深層腱の内側肥厚部に付着し、より深層では肘頭中央内側遠位に付着する。④⑤ 一方、上腕三頭筋外側頭の腱は、表層では腕橈骨筋や前腕伸筋共同腱と合流し、膝関節外側支帯のように肘筋の筋膜と尺骨外側に幅広く付着する。③④ 外側頭は深層で深層腱の外側に付着する。④ 上腕三頭筋は尺骨外反・外旋作用を有するとされるが⑥、肘頭への付着部の違いから、筋頭によって異なる機能を有すると考えられる。膝蓋骨に対する内側広筋外側広筋のように、内側頭は肘頭を近位内側に引き込み、肘関節の内反と外旋に作用するのに対し、外側頭は肘頭を近位外側に引き込み、肘関節の外反と内旋に作用すると考えられる。上腕三頭筋の筋活動は肘関節屈曲110°で最大となる。⑦ 長頭と外側頭の筋活動は肘関節伸展に伴い低下するが、内側頭の筋活動は維持される。⑺ また肩関節挙上位における内側頭の筋活動は長頭や外側頭よりも高い。⑦

・上腕内旋は、神経の伸張に加え、内側筋間中隔を緊張させ、尺骨神経を動的に圧迫する可能性がある。⑧ また上腕三頭筋内側頭のスナッピングと尺骨神経脱臼の関連なども報告されており⑨、野球選手にみられる上腕三頭筋内側頭の掌側への走行変化も尺骨神経に関与すると考えられる。

・肘拘縮における観血的治療法として後内側の関節包、肘内側側副靱帯(UCL)後斜走線維(POL)のリリース⑩を行うことで旅行な可動域の改善が示されていることから、肘関節後内方組織の柔軟性も重要と考えられる。後内方には上腕三頭筋内側頭がある。上腕三頭筋内側頭は内側筋間中隔後方に連続する。⑪⑫ 内側筋間中隔は前方では上腕筋深頭前内側線維が連続し⑬、近位では烏口腕筋も連続しており⑫、内側筋間中隔の柔軟性改善が肘屈曲可動域の改善につながる。

・肘関節伸展機能において、上腕三頭筋は重要な役割を果たす。上腕三頭筋内側頭が浅層では上腕骨の長軸方向に走行しながら肘頭内側端に付着し⑭、深層では長頭とともに深層腱肥厚部内側に付着するのに対し⑮、上腕三頭筋外側頭は浅層が腕橈骨筋・前腕伸筋共同腱とともに尺骨外側に幅広く付着し⑭、深層は深層腱肥厚部外側に付着しており⑮、機能的に対立する。加えて上腕三頭筋内側頭は筋線維が直接肘頭深部に付着しており⑯⑰、最終伸展で肘頭を深部に引き込む作用を有する。また、上腕三頭筋の筋活動は肘関節屈曲110°で最大となり、肘伸展に伴い上腕三頭筋長頭・外側頭の活動が弱まるなか、内側頭のみ伸展位でもその機能を維持するとされる。⑱ 肘関節伸展制限の長期化は、尺骨後外側と外側関節包に付着し、肘関節伸展と後外側回旋安定性に寄与するとされる。⑲ 前腕回内位における伸展運動でその活動が高まる。⑳

引用文献

①林典雄 監修,鵜飼建志 編著:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 上肢 第1版,2016

②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐上肢,2012

③keener jd.et al:insertional anatomy of the triceps brachii tendon.j shoulder elbow surg.19(3):399-405.2010.

④windisch g.te al:the triceps brachii muscle and sts insertion on the olecranon med sci monit.12(8)br290-294.2006.

⑤belentani c.et al:trices brachii tendon:anatomic-mr inaging study in cadavers with histologic correlation sketetal tadiol.38(2):171-175.2009.

⑥an kn.et al:muscles across the elbow joint:a biomechanical analysis j biomech.14(10):659-669.1981.

⑦kholinne e.et al:the different role of each head of the triceps brachii muscle in elbow extension acta orthop traumatol turc.52(3):201-205.2018.

⑧ochi k.et al:shoulder internal totation elbow flexion test for diagnosing cubital tunnel syndrome.j shoulder elbow surg.21(6):777-781.2012.

⑨kang jh,et al:ultrasonographic and electrophysiolpgical evaluation of ulnar nerve instability and snapping of the triceps medial head in healty subjects.am j phys med rehabil.96(8):e141-146.2017.

⑩wada t.et al:the medeial approach for operative release of post-traumatic contracture of the elbo.j bone joint surg br.82(1):68-73.2000.

⑪Caetano eb.et al:thearcade of struthers:an anatomical study and clinical implications.rev bras ortop.52(3):331-336.2017.

⑫wehrli l.et al:the internal brachial ligament versus the arcade of struthers:an anatomical study.oplast reconstr surg.115(2):471-477.2005.

⑬leonello dt.et al:brachialis muscle anatomy.a study in cadaavers.j bone joint surg am.89(6):1293-1297.2007.

⑭keener jd.et al:insertional anatomy of the triceps brachii tendo.j shoulder elbow  surg.19(3):399-405.2010.

⑮windisch g.et al:the triceps brachii muscle and its insertion on the olecranon.med sci monit.12(8):br290-294.2006.

⑯barco r.et al:the distal triceps tendon insertional anatomy-implications for surgery.jses open access.1(2):98-103.2017.

⑰belentani c.et al:triceps brachii tendon:anatomic-mr imaging study in cadaers with histologic correlation.skeletal radiol.38(2):171-175.2009.

⑱kholinne e.et al:the different role of aech head of the triceps brachii muscle in elbow extension.acta orthop traumatol turc.52(3):201-205.2018.

⑲pereira bp:revisiting the anatomy and biomechanics of the anconeus nuscle and its role in elbow stability.ann anat.195(4):365-370.2013.

⑳bergin mj.et al:functional differences vetween anatomical regions of the anconeus muscle in humans.j electromyogr kinesiol.23(6):1391-1397.2013.

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