棘上筋

基本情報

起始肩甲骨棘上窩①
停止上腕骨大結節の上面①
支配神経肩甲上神経①
髄節レベルC5・C6①
作用肩甲上腕関節外転
前方線維:内旋
後方線維:外旋
骨頭の関節窩への引き付け作用①

関連情報

・棘上筋は腱板を形成する4つの筋群の一つであり、そのなかでも機能上最も重要な筋肉である。 ②

・棘上筋と肩甲下筋の間には間隙があり、腱板疎部よばれる。 ②

・棘上筋の上面には肩峰下滑液包があり、棘上筋の滑動機能を円滑化している。 ②

・棘上筋腱を、中、後の3等分し、それぞれの腱に付着する筋量をみると、前方部に付着する筋量が圧倒的に多い。これは棘上筋の収縮が前方部に強く作用することを意味している。 ②

・棘上筋は肩関節外転に作用するが、骨頭中心からの距離が非常に短いため、外転力としての作用はそれほど強くはない。 ②

・棘上筋の機能としては、下垂位からの外転において骨頭を関節窩に引きつける支点形成力の発揮が重要視されている。 ②

・肩関節の挙上位における棘上筋は、起始と停止が近づくため、有効な支点形成力を発揮することができず、その視点形成機能は、他の腱板筋群との協調の下で作用する。 ②

・棘上筋は回旋軸を前後にまたぐ筋である。内旋時には棘上筋の前方部分が関与し、外旋時には後方部分が関与する。 ②

・腱板断裂のほとんどは棘上筋を含んだ形で存在し、完全断裂例の機能の再獲得には手術が必要である。 ②

・腱板炎や肩峰下滑液包炎の重症例では、棘上筋の収縮による疼痛が強いため、一見すると腱板断裂例と同様な棘上姿勢を呈するため注意が必要である。 ②

・棘上筋が烏口肩峰靭帯や肩峰に衝突したり挟まれたりする病態を、肩峰下インピンジメント症候群とよび各種スポーツ障害肩の大きな原因となる。 ②

→棘上筋は、肩峰、烏口肩峰靭帯の下方を走行するため、外転に伴い衝突や挟み込みといった肩峰インピンジメント症候群を発生しやすい。野球、水泳、バレーボール等で多い障害のひとつである。 ②

・棘上筋腱が肩峰下滑液包を含めた上方組織と癒着すると、棘上筋腱の遠位への滑走が制限され、結滞動作を著明に制限する。 ②

・関連疾患:腱板損傷、腱板炎、肩峰下インピンジメント症候群、肩関節不安定症、肩甲上神経麻痺など。②

・棘上筋は、肩関節の外転と骨頭の関節窩への引き付け作用を有している。②

・棘上筋と三角筋のフォースカップル作用

→肩関節下垂位からの外転運動は、棘上筋による支点形成力の上に、三角筋による強力な回転モーメントが加わることで達成される。このように1つの運動を遂行する際に、2つ以上の筋肉が共同して関わることをフォースカップル作用と呼ぶ。 ②

・関連テスト:ニアーサイン、ホーキンスサイン②

・圧迫力(compression force)は、reaction forceの外側方向成分と釣り合う力で、関節面に垂直に作用する力として定義され、 compression forceの増加は関節の安定性の増加を示すと考えられる。Aprelavaらは、屍体肩を用いて肩関節外転運動における三角筋と棘上筋の緊張力を変化させた実験を行い、三角筋と棘上筋の筋張力の割合が2:3の場合には増加すると報告した。 reaction forceの増加はその成分の一つであるcompression forceの増加にもつながると考えられる。⑤

・Labriolaら14)も屍体肩を用いた実験を行い、棘下筋の筋張力を低下させた際に、正常と比較して肩関節外転90°におけるcompression forceが優位に減少したと報告した。これらより、棘上筋、棘下筋が肩関節安定性に貢献していることが示唆された。⑥

・肩関節の不安定性を制動する動的関節制動機構には、主に棘上筋、棘下筋小円筋肩甲下筋の回旋筋腱板があげられる。また上腕二頭筋も関節制動に働いていると考えられる。回旋筋腱板はその走行より上腕骨頭を肩甲骨関節窩に求心位に保持する働きがある。Lippittらは屍体を用いた実験において、上腕骨頭を肩甲骨関節面方向への圧縮応力を50Nから100Nにすることにより、上下および前後方向の安定性が高くなると報告した。さらに三角筋などの肩甲上腕関節周囲に付着している筋群と回旋筋腱板のバランスが崩れると上腕骨頭に対して前方へ力が働き、脱臼にいたることを示した。⑦

・Neerの報告によって、腱板断裂の受傷メカニズムの1つとして肩峰下インピンジメントの存在が明らかになった。肩峰下インピンジメントは、上腕骨頭と肩峰下の間に腱板、特に棘上筋腱が接触することで機械的ストレスが生じることによって起こる。⑧

・腱板と三角筋の解剖学に関しては数多くの研究があり、測定方法や実験方法に違いはあるものの、最も損傷されやすい棘上筋は筋機能としての作用は比較的小さいことが示唆された。また、棘上筋の筋機能は上肢の挙上角度が上がれば上がるほど小さくなる。⑨⑩⑪⑫

・Loehrらのバイオメカニクス研究では、人為的に特定部位の腱板損傷を作り、肩甲上腕関節の関節運動に及ぼす影響を調査した。その結果、棘上筋損傷のみでは正常な関節運動が維持されるものの、棘上筋と棘下筋の複合損傷では上腕骨頭の上方変位が惹起されることを示唆した。⑩

・臨床的によくみられる棘上筋損傷であっても、複合でなく単独損傷の場合は肩関節の機能が補われる可能性が報告された。⑬⑭

・肩関節の運動は、その運動に参画する筋群の共同作用によって成り立っている。なかでも、上肢挙上の主動作筋である三角筋は、挙上初期より活動を開始し90°~120°でその活動は最大となる。

腱板構成筋もまた挙上初期より活動を開始するが、挙上中期までにその活動は最大となり、それ以降は減少してゆく。⑯⑰ 興味深いことに、棘上筋の活動開始は、挙上(骨運動)が開始されるよりもわずかに

(約0.1秒)早いことから、挙上運動のStaeterとして上腕骨頭の引き寄せに作用すると考えられる。肩甲骨の運動や支持に関与する僧帽筋前鋸筋、および菱形筋の活動も、挙上初期より開始され、挙上100~130° で最大となる。⑰

・腱板には肩関節運動の主動作筋としての働きとともに、上肢挙上時にはforce coupleを形成し、上腕骨頭に安定した視点を与える役割がある。⑱⑲ 棘上筋は、三角筋と共同して肩関節の挙上運動に関するが、棘下筋小円筋肩甲下筋は、depressorとして三角筋による上腕骨頭上方化を抑制する。上腕二頭筋長頭腱は、上腕骨頭の上方化を抑制する作用に加えて、前方、後方、および下方に対する制動作用も有する。⑳ これら上腕二頭筋長頭腱の安定化作用は、健常者よりも腱板断裂や前方不安定肩でその貢献度は高い。㉑㉒

・肩甲上腕関節の回旋運動上肢挙上時の肩甲上腕関節は、最大で約100~120°の挙上を行うことが可能であるが、このときの上腕骨には自然な外旋運動が生じる。古くから、この上腕骨の外旋は「強制的な外旋(ogligatory external totation)」と呼ばれ、大結節と肩峰の衝突を回避して、最大挙上を行うために必要な動きとされてきた。㉓ また上腕骨頭と関節窩の形状から、大結節に付着する棘上筋腱(関節面側)と関節窩上縁の衝突を回避するため、上腕骨を外旋させるという意見もある。㉔ しかしながら、安静下垂位では内旋位にある上腕骨は、挙上運動の主動作筋である棘上筋の収縮によって必然的に外旋する。また最大挙上時における結節間溝の位置は、上腕二頭筋長頭腱が起始する関節窩上縁とおおむね一致するため㉕、上腕二頭筋長頭腱がガイドとなって上腕骨の外旋を誘導している可能性もある。つまり、挙上に伴う上腕骨の外旋は、肩峰下や関節内における衝突を回避するために起こるものではなく、棘上筋や上腕二頭筋長頭腱によって結果的に生じると考えられる。なお、屍体肩で調べられた最大挙上時の外旋角は、肩甲骨面よりも約20°前方の挙上面で、約35°外旋することが示されている。㉖

・投球動作におけるテイクバックによる肩関節の伸展・外転時に、棘上筋大結節付着部は肩峰とインピンジメント(Neer徴候)を生じることもある。⑷

・肩腱板断裂が肩関節の動的安定性に与える影響について、これまで屍体肩を用いた研究が多く行われてきた。なかでも、棘上筋は上肢挙上時に上腕骨頭を下方へ下げる働きを有し、その機能が低下すると上腕骨頭の上方変位を引き起こす。㉗㉘㉙ Sharkeyらは、棘上筋の単独断裂では上腕骨頭は0.1~1.8mm情報に変位したと報告している。㉘ またHalderらは、各鍵盤に負荷を加えて上腕骨頭変位量を分析した結果、棘上筋に負荷をかけると上肢下垂位、肩関節30°、60°、90°外転位それぞれの肢位の平均で2.0mm、棘下筋では4.6mm、肩甲下筋では4.7mmそれぞれ下方に変位することを示した。㉙ これらの結果から、棘上筋、棘下筋肩甲下筋のどれが単独で機能低下を起こしても上腕骨頭の上方変位を引き起こすと考えられるが、上腕骨頭を下方へと押し下げる働きについては棘上筋より棘下筋肩甲下筋が大きいようである。④

・肩腱板筋群の伸張位断裂腱板のストレスとして、伸張ストレスが挙げられる。棘上筋の伸張肢位に関して、Murakiら㉚は肩関節伸展+水平外転で、Nishishitaら㉛は肩関節挙上45°および90°における最大水平外転位での最大内旋と最大伸展位での最大内旋で、棘上筋が最も伸張されると報告している。また回旋肢位に関して、Acklandら㉜は屍体を用いて棘上筋のモーメントアームを求めた結果、肩関節外転位では前部、後部線維ともに外旋方向、肩関節屈曲位では内旋方向のモーメントアームを有することを明らかにしている。これらの報告より棘上筋腱断裂症例の理学療法において、可動域拡大を目的に肩関節最大伸展位からの水平外転、肩関節水平外転位での内旋、また肩関節外転位での内旋は行わない方がよい。日常生活動作では結滞動作は行わないように指導する。

・棘上筋の筋力トレーニング

棘上筋の挙上方向のモーメントアームは挙上0~40°の前部、後部線維ともに大きい。対して代償的に働く三角筋はこの角度でモーメントアームは小さいため㉝、この範囲で筋力トレーニングを行うと良い。また、full can test、empty can testの肢位では棘上筋の筋活動に差はないが、full can testの肢位において三角筋中部後部線維の筋活動が低いことが示されている。㉞ そのため棘上筋を選択的に筋力トレーニングするためには、挙上角度は0~40°の範囲において前腕中間位で行うとよい。

引用文献

①林典雄 監修,鵜飼建志 編著:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 上肢 第1版,2016

②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐上肢,2012

③皆川洋至ほか:腱板を構成する筋における筋性部分の構造について.日整会誌64(8).S1642.1995

④福林徹 蒲田和芳 監修:肩のリハビリテーションの科学的基礎,第1版,2016

⑤apreleva m,parsons imt,warner jj,fu fh,woo sl.experimental investigation of reaction forces at the glenohumeral joint during active abduction.j shoulder elbow surg.2000;9:409-17.

⑥labriolaje,lee tq,debski re,mcmahon pj.stability and instability of the glenohumeral joint:the role of shoulder muscles.j shoulder elbow surg.2005;14(1 suppl s):32s-38s.

⑦lippitt s,matsen f,mechanisms of glenohumeral joint stability.clin orthop relat res.1993;(291):20-8.

⑧neer cs 2nd.anterior acromioplasty for the chronic impingement syndrome in the shoulder:a preliminary report.j bone joint surg am.1972;54:41-50.

⑨poppen nk,walker ps.forces at the glenohumeral joint in abduction.clin orthop.1978;135:165-70.

⑩glenohumeral muscle force and moment mechanics in apposition of shoulder instability.j biomech.1990;23:405-15.

⑪keating jf,waterworth p,shaw-dunn j,crossan j,the relative strengths of the totator cuff muscles.a cadaver study.jbone joint surg br.1993;75:137-40.

⑫Herzberg g,urine jp,dimnet j.potential excursion and rekative tension of muscle in the shoulder girdle:rekevance to tndon transfers.j shoulder erbow surgety.1998;8:430-7.

⑬bryan wj,schauder k,thllos hs.the axillary nerve and its relationship to common sports med.1986;14:113-6.

⑭mufnaghan jp,adhesive capsulitis of the shoulder:current concepts and treatment.orthopedics.1988;11:153-8.

⑮編集 甲斐義浩:肩関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2021

⑯kironberg m.et al:muscle activity and coordination in the normal shoulder.an ekectoromyographic study clin orthop relat res.(257)76-85.1990

⑰wickham j.et al:quantifying ‘normal’ shoulder muscle activity during abduction j ekectromyogr kinesiol.20(2)212-222.2010

⑱saha ak:dynamiv stability of the glenohumeral joint acta prthop scand,42(6)491-505.1971

⑲thmpson wo.et al.:a biomechanical analysis of rotator cuff deficiency in a cadaveric model am.j sprts med.24(3):286-292.1994

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