基本情報
起始 | 下腿骨間膜後面の上半、腓骨・腓骨の骨間膜側① |
停止 | 主に舟状骨粗面と内側楔状骨に停止(線維の一部は足底へと広がり、中間・外側楔状骨、立方骨底面に至る)① |
支配神経 | 脛骨神経① |
髄節レベル | L5~S2① |
作用 | 距骨下関節回外、距腿関節底屈① |
関連情報
・後脛骨筋の上半は羽状、下半は半羽状の形態をとる。②
・足根管のレベルでは後脛骨筋腱は内果のすぐ後方を通過する。②
・後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋は深後側コンパートメントに存在し、3筋はヒラメ筋のポケット内に収納されている。②
・後脛骨筋は足関節を底屈し、足部を回外(内反)、内転する。②
・足部を固定した場合には、下腿を後傾かつ内方へ引く。②
・後脛骨筋は足部アーチを保持する最も重要な筋肉である。②
・後脛骨筋腱機能不全(PTTD)では、too many toe signが特徴的である。②
・回内不安定性がある足部では、後脛骨筋腱腱鞘炎やシンスプリントが発症しやすい。②
・ランニング障害として代表的なシンスプリントでは、後脛骨筋の強い圧痛とともに著明な高緊張を認める。③④
・下腿骨骨折等では、後脛骨筋を中心とした後深層コンパートメント内圧が上昇することによる疼痛や、可動域制限が生じやすい。②
・足関節周辺外傷後の足関節背屈制限において、最も関連が深く治療対象として第一選択となる筋は後脛骨筋である。②
・関連疾患:後脛骨筋腱機能不全(PTTD)、後脛骨筋腱腱鞘炎、シンスプリント、足関節果部骨折、有痛性外脛骨、偏平足障害、凹足など。②
・後脛骨筋において、内反モーメントアームが最も大きく、外反モーメントアームは長腓骨筋と短腓骨筋と同程度であった。⑥⑦
・モーメントアームと生理的断面積の値より、筋力の予測値であるポテンシャルモーメントを算出し、距骨下関節内外反筋力については、後脛骨筋と長、短腓骨筋が同程度の筋力を発揮すると予測された。 ⑥⑦⑧
・ショパール関節の外転可動性の低下には後脛骨筋や母趾外転筋の柔軟性低下が関与している可能性が多い。⑨
・後脛骨筋の足部アーチ構造と筋機能
主に屍体研究にて後脛骨筋の張力を選択的に減少させた際の足部アライメントの変化が調査されてきた。⑩⑪ 歩行立脚中期の再現実験では、後脛骨筋腱の切断によって、第1中足骨は距骨に対して背屈・外がえし・外転したが、いずれも1.2°未満の変化量であった。⑫ またバネ靭帯の切除前後では、後脛骨筋の張力増加に伴う距骨、踵骨、舟状骨のアライメント変化量はいずれも0.5°未満であった。⑪ 加えて、後脛骨筋腱を切断しても内側縦アーチを構成する第1中足骨と踵骨、横アーチを構成する舟状骨と立方骨の傾斜角度に有意な変化は認めなかった。⑩
・足部アーチは足部内在筋や外在筋によって動的に支持されている。それらのなかでも最も重要な筋は後脛骨筋である。後脛骨筋の起始は脛骨後内側、骨間膜、腓骨で、下腿遠位1/3から腱に移行する。後脛骨筋腱は内果後方に通過して、舟状骨粗面、楔状骨、第2、3、4中足骨に停止する。このように足底面の複数の部位に付着をもつため、荷重位での後脛骨筋の収縮は、荷重負荷に対して足部内側縦アーチの低下を防ぐ機能を持つ。⑬
・歩行時の筋活動をみると、立脚初期と推進期に二峰性の筋活動パターンを示す。⑭ 立脚初期の活動は、踵接地時に生じる距骨下関節の外がえし運動を内がえし方向のモーメントアームの最も大きい後脛骨筋が制動するために起こるとされている。⑮⑯ また推進期には、距骨下関節を内がえしさせ、midtarsal joint locking mechanismによってショパール関節をロックすることで、足部剛性を高め力の伝達効率を高めることに寄与している。このように、後脛骨筋は荷重動作時にアーチ保持にかかわるだけでなく、足部の運動を動的に制御し、足部剛性の調整を行っている。⑨
・筋の動的安定化作用が不十分な場合、足部アーチ保持が困難となり機能障害につながる。特に、後脛骨筋の機能不全は、足部機能に重大な問題を引き起こす。後脛骨筋の機能には、後脛骨筋腱の状態が大きく影響する。後脛骨筋腱は屈筋支帯にしじされながら足根管内を走行し、内果後方では平坦化する。この部分は線維軟骨が豊富だが、血流が乏しい特徴をもつ。⑰ さらに、後脛骨筋腱は内果後方からほぼ直角に角度を変えて舟状骨に向かって走行する。この血流の乏しさと急峻な腱走行角度の変化が、腱の退行変性にかかわると考えられている。⑱ 退行変性が生じることによって、後脛骨筋の筋張力を正常に伝達できなくなり、足部アーチ保持機能を果たすことができなくなる。このような状態は後脛骨筋腱不全症と定義され、後脛骨筋腱の病理学的変化によって、腱が1cm伸長されることで足部アーチの主要な保持機能としての役割を失うとされている⑱
・成人における後天的な偏平足の原因として、最も多い病態は後脛骨筋腱の機能不全であり、約80%の症例にみられる。⑲ この後脛骨筋腱の障害は外傷によって起こることは少なく、高血圧や糖尿病による血流障害や繰り返しの機械的ストレスが原因とされる。⑳㉑ これらの原因によって後脛骨筋腱不全症となると、歩行の立脚初期における距骨下関節外がえしに対する制動作用も機能しなくなる。そのため、静的支持機構として後足部外がえしを制動する三角靭帯にもストレスがかかるようになり、靱帯の機能不全につながる。また後足部が外がえし位をとることで、アキレス腱は距骨下関節軸の外側を走行することになり、足部の扁平化が助長される。㉒ 正常の場合、歩行の推進期には後足部は内がえし位となるが、後脛骨筋腱不全症患者では、この推進期の内がえしが減少する。㉓ この内がえしの減少によって足部剛性は十分に高まらない。また下腿三頭筋の収縮による足部底屈モーメントは前足部まで伝達されず、主に踵骨と距骨に対して作用する。その結果、ショパール関節の運動が増加することで、踵骨と舟状骨に付着し、足部アーチを保持しているバネ人体への負荷が増加する。⑲ この負荷の増加によって、バネ靭帯が伸長されると、より足部アーチは低下することになる。⑨
・後脛骨筋腱不全症は4つのステージに分類され、ステージⅡはⅡaとⅡbに分けられるため、合計5つの病態に分類される。㉔㉕ 後脛骨筋腱不全症のステージⅢ以上となると、手術適応となることが多い。そのため、患者の病態を正確に把握して、適切な治療アプローチを行うことが重要である。
・ステージ分類と機能評価のために必要な理学療法評価は、疼痛部位、変形の有無、徒手的変形の習性が可能かどうか、後脛骨筋の筋力、heel raise test、too many toes signである。ステージⅡb以上では踵骨と腓骨の間でインピンジメントが生じるため、足部外側に疼痛を認めることがある。㉕ また変形の有無と徒手的な変形の修正の可否は重要なポイントとなる。ステージⅡaまででは後足部の外がえし変形のみを認めるが、ステージⅡbとなると前中足部の外転変形も生じる。さらにステージⅡでは足部変形をも認めるが、柔軟性があるため徒手的な修正は可能である。しかし、ステージⅢ以上になると柔軟性が低下するため、徒手的な修正は困難となる。
・後脛骨筋は下腿の筋のなかでも最も内がえし方向へのモーメントアームが長いため、非荷重位で徒手にて外がえし抵抗に加えて、単純な筋力を評価することができる。その際、股関節の内転や内旋による代償が生じやすいため、患者には膝蓋骨を上方に向けたまま動かさないように指示をする必要がある。筋力強化は左右とも行い、必ず左右差を確認する。⑨
・距骨下関節の外反変形は、後脛骨筋腱不全症でも最も早期から起こる変形であるため、重要な評価事項となる。⑨
・偏平足患者の多くに後脛骨筋および後脛骨筋腱の機能障害が認められることから、後脛骨筋のトレーニングは、足部アーチの過剰低下に対する運動療法として有用である。12週間の運動介入を行った研究では、インソールの使用に後脛骨筋トレーニングを組み合わせることで、より疼痛の軽減と機能の改善が認められた。㉖
・後脛骨筋の単独収縮を促す場合、足部内転運動が最も効果的とされている。㉗ その場合、エラスチックバンドを前足部内側に巻き、外側から抵抗を加えて足部内転運動を行う。また外側にエラスティックバンドを固定する場所がない場合、対側の足部に巻くことで、抵抗を加えることができる。⑨
この運動を膝関節伸展位で行う場合、股関節外旋に注意する。また、足部を自然下垂位にすることで、距腿関節は軽度底屈位となり、後脛骨筋腱の内果後方での急峻的な角度変化が少なくなるため、より筋張力の伝達効率が良くなると考えらえる。
後脛骨筋機能が低下している場合、運動介入の第1段階としては、単独収縮を促す選択的トレーニングが重要となるが、後脛骨筋の主要な筋機能はあ充位での運動である。そのため次の段階として他の筋と強調した荷重位での運動介入が必要となる。荷重位での運動としてカーフレイズは有効なトレーニングである。特に足部30°内転位でのカーフレイズは後脛骨筋の筋活動量が高いとされている。㉘ 足部内転位でのカーフレイズを行う際、可能な限り小趾球に荷重させて、踵部挙上とともに足部内がえしを強調させる。この運動はバランス保持が困難であるため、壁やテーブルなどを軽く支えにすることで、転倒や足部の過度な内がえしを防ぐ必要がある。⑨
・前足部横アーチを保持する靱帯(背側中足靱帯、底側中足靱帯、深層中足靱帯)の破綻は前足部横アーチを低下させる。横アーチの頂点となる第2中足骨は内外側楔状骨に挟まれる形状で骨性安定性に優れるが、一方で、リスフラン関節の脱臼なども生じやすい関節であり、この部位における靭帯組織の損傷は横アーチを破綻させる。横アーチの貢献する代表的な外在筋は前脛骨筋、後脛骨筋、長腓骨筋である。後脛骨筋機能不全は、内側縦アーチだけでなく、横アーチ低下の原因にもなる。⑨ また長腓骨筋の収縮は中足部横アーチに圧縮力を加えることでアーチを安定させる㉙
・後脛骨筋は、腓骨後面内側・骨間膜・脛骨後面内側から起始し、下腿遠位部で長趾屈筋の深部を交叉する(ここでの摩擦障害はシンスプリントの1つの病態である)。屈筋支帯下において内果の後方で長趾屈筋腱と併走して、舟状骨粗面、内側・中間・外側楔状骨、第2~5中足骨底に付着する。㉚
・後脛骨筋が収縮すると、足関節は底屈・内転・内反する。ショパール関節はわずかに底屈(屈曲)・回外する。また内側縦アーチを挙上させる機能が少ないが、舟状骨粗面や内側楔状骨の下降を抑止する機能がある。㉛ 一方、前距腓靭帯断裂例では、筋収縮により距骨の内転・内反を助長するきっかけとなる。㉜
引用文献
①林典雄 監修,鵜飼建志 編著:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 下肢・体幹 第1版,2019
②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐下肢・体幹,2007
③清原信彦,小関博久,栗山節郎,編集:アスレチックトレーニングの実際,p126-127,南江堂,1998
④菅原誠、石井精一:骨過労性骨膜炎.臨床スポーツ医学,8(臨時増刊号):219-221,1991
⑤福林徹 蒲田和芳 監修:足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎,2010
⑥horsmanmd,Koopman hf,van der hekm fc orose lp,veeger he.morphological andjoint parameters for musculoskeletal modelling of the lower extremity.clin biomech(Bristol,avon).2007;22:239-47
⑦klein p,mattys s,rooze m.moment arm length variations of selected muscles acting on talocrural and subtakar joints during movement:an in vitro study.j biomech.1996;29:21-30.
⑧keating jf,waterworth p,shaw-dunn j,crossan j.the relative strenghs of the rotator cuff muscles.a cadaver study.j bone joint surg br.1993;75:137-40.
⑨編集 小林匠 三木貴弘:足部・足関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2021
⑩imhauser cw.et al:the effect of posterior tibials tibialis tendon dysfunction on the plantar pressure characteristics and the kinematics of the arch and the hindfoot clin biomech(bnstol.avon).19(2):161-169.2004.
⑪Jennings mm.et al:the effects of sectioning the spring ligament on rearfoot stability and posteripr tibial tendon efficiency.j foot ankle surg.47(3):219-224.2008.
⑫kitaoka hb.et al:effect of the posterior tibial tendon on the arch of the foot during simulated weightbearing.biomechanical analysis j foot ankle int.18(1):43-46.1997.
⑬kamiya t.rt al:dynamic effect of the tibials posterior muscle on the arch of the foot during cyclic axial loading clin biomech(Bristol.avon),27(9):962-966.2012.
⑭akuzawa h.et al:calf muscle activity alteration with foot orthoses insertion during walking measured by fine-wire electoromyography j phy ther sci.28(12):3458-3462.2016.
⑮murley gs.et al:tibilis posterior emg activity juring barefoot walking in people with neutral foot posture.j electromyogr kinesiol.19(2):e69-77.2009.
⑯klein p.et al:moment arm length variations of selected muscles acting on talacrural and subtalar joints during movement:an in vitro study.j biomech.29(1):21-30.1996.
⑰gluck gs.et al:tendon disorders of the foot and ankle.part3:the posterior fibial tendon.am j sports med.38(10):2133-2144.2010.
⑱Myerson ms:abult acquired flatfoot defoymity:treatment of dysfunction of the posterior tibial tendon.instr course lect.46:393-405.1997.
⑲kulig k.et al:nonsurgical management of posterior tibial tendon dysfunction with orthoses and resistive exercise:a roandomized controlled trial.phys ther.89(1):26-37.2009.
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㉒czerniecki jm:foot ando ankle biomechanics in walking and funning.a review.am j phys med rehabil.67(6)246-252.1988.
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㉔gluck gs,et al:tendon disoeders of the foot and ankle.part3:the posterior tibial tendon.am j sports med.38(10):2133-2144,2010.
㉕Myerson ms:abult acquired flatfoot deformity:treatment of dysfunction of the posterior tibial tendon.instr course lect,46:393-405.1997.
㉖kulig k.et al:nonsurgical management of posterior tibial tendon dysfunction with prthoses and resistive exercise:a rondmized controlled trial.phys ther.89(1):26-37.2009.
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㉘akuzawa h.et al:the influence of foot position on lower leg muscle activity during a heel raise exercise measured with fine-wire and surface emg phys ther sport.28:2328.2017.
㉙czerniecki jm:foot and ankle biomechnics in walking and funning.a review.am j phys med rehabil.67(6):246-252.1988.
㉚著 赤羽根知良:痛みの理学療法シリーズ 足部・足関節痛のリハビリテーション,2020
㉛Basmajian jv:the role of musckes in erch support of the foot:an electromygraphic study.j bone joint surg 45-a:1184-1190,1963.
㉜高倉義典:メカニカルストレスと変形性関節症:変形性足関節症の原因-メカニカルストレスを中心に、別冊整形外科.53:19-24,2008.
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