腹横筋

基本情報

起始7~12肋軟骨内側面、胸腰筋膜深層、腸骨稜、鼡径靱帯①
停止腹直筋鞘①
支配神経肋間神経(7~12)、腸骨下腹神経、腸骨鼡径神経、陰部大腿神経①
髄節レベル
作用内外腹斜筋とともに腹圧を上昇させる①

関連情報

・腹筋群は、股関節の屈曲に作用する筋群(腸腰筋大腿直筋など)が働いたときの骨盤の固定作用をもつ。②

・腹筋群全体として腹圧を高め、呼気に作用する。②

・腹筋群の弱化は腰椎の前弯を増強し、慢性腰痛の原因となる。②

・腹筋群の作用が消失した脊髄損傷例では、強い呼息ができないため痰の排泄などでは時に介助が必要である。②

・逆に腹筋群に強い攣縮がある例では、腹圧が高まることで横隔膜を押し上げ、呼気が困難となる。②

・後方から前方への動きを有する上肢運動ならびに下肢運動では、腹筋群による骨盤ならびに胸郭の固定化作用が不可欠である。②

・関連疾患:脊髄損傷、頚髄症性不全四肢麻痺、慢性腰痛など。②

・Urquhartは女性6名、男性6名を対象とした屍体研究から腹横筋の部位を同定した。腹腔側面を広く覆う腹横筋内には水平方向に向かう筋間中隔は肋骨角と腸骨稜に存在し、その存在率は肋骨角で42%、腸骨稜で77%であった。また各部位における筋厚については上部が最も厚く、顆部が最も薄いと報告された。③④

・Urquhartはらは、腹横筋について、上部線維は胸郭の固定、安定化、中部線維は胸腰筋膜を緊張させ、腰椎の安定化、下部線維は仙腸関節の圧迫による安定化というそれぞれの機能を有し、胸郭-腰椎-骨盤の機能的安定化に寄与すると報告した。③⑤

・体幹筋の収縮方法別の効果について、bracungによる外腹斜筋内腹斜筋、腹横筋の収縮に比べ、draw-inによる腹横筋の収縮によって仙腸関節のスティッフネスがぞ対することが報告された。③⑥

・腹横筋下部および骨盤底筋は重要な骨盤安定化筋であることはまちがいないが、これらの単独収縮は仙腸関節を開大する作用をもつことに十分な注意が必要である。腹横筋下部の単独収縮は寛骨前面を接近させ、仙腸関節後部を開大する作用を持つ。骨盤底筋の単独収縮は尾骨を前方に引き、仙骨の後傾(カウンターニューテーション)を促すことから、仙腸関節のルーズパックポジションに導く。③

→腹横筋や骨盤底筋の強力な収縮を伴う、くしゃみが急性腰痛の発症機転となることからも、場合によってはこれらの筋の収縮が骨盤輪の安定性に対して負の影響を持つ危険性が離開される。③

・腹横筋下部および骨盤底筋による骨盤安定化作用は、多裂筋大殿筋、胸腰筋膜の緊張によるフォースクロージャ―が十分に得られているときにのみ有効となると考えられる。このため、これらの筋のトレーニングを行う際には、腰椎前弯を保った状態で行うことが重要と言える。③

・腹横筋下部は恥骨結合安定化に必要な筋であり、その安定化作用は呼吸相に影響されないことが重要である。すなわち、呼気と吸気のいずれの相においても腹横筋の姿勢筋として緊張を持続できる能力が求められる。したがった、腹横筋下部のエクササイズとしては、その緊張を保ちつつ呼吸を反復することから開始する。呼吸から分離し+姿勢筋として腹横筋下部の持続的緊張が得られるようになったら、腹斜筋腹直筋との協調性を高めるエクササイズとして骨盤ローリングエクササイズ、胸郭ローリングエクササイズなどが有効である。③

・腰背筋膜は多くの筋群と付着している。その機能としては、腹横筋と中部線維の付着を通じた腰椎・仙腸関節の安定、広背筋大殿筋と後部線維の付着を通じた下肢、上肢、骨盤、体幹の間の張力の伝達、後部線維を通じた脊柱起立筋に対する筋支帯と付着靭帯がある。③

・腰背筋膜後部線維は広背筋と対側の大殿筋と強い付着をもち、腹横筋は腰背筋膜中部線維と強い付着を持つことから、それぞれの筋の張力は正中線を越えて両側の腰背筋膜への張力伝達があることが示唆される⑦⑧。一方、外・内腹斜筋と腰背筋膜中部線維の付着は存在するものの、Barkerらは、その付着角度が直角に近いことから張力の伝達はわずかであると報告した。③⑧

・MacDonaldらは、多裂筋についてその深層線維が腰椎の安定化に関与、そして腹横筋と同調して働くと報告した。また、Hidesらは、多裂筋の収縮能力は腹横筋の収縮能力に影響すると報告した。以上より、腹横筋と多裂筋の重要性は明らかである。③⑤⑨⑩

・胸腰筋膜は様々な筋と連結し、同側に限らず反対側にも影響を及ぼしている。また腹側筋である腹横筋や内腹斜筋が胸腰筋膜を介して脊椎安定性に関与しており、特に中葉は腹横筋の張力を腰椎を伝達するのに適した構造である。⑪

・TeshらやHodgesらは中葉を介した腹横筋の収縮により、腰椎伸展に作用したと報告している。またBarkerらは中等度の腹横筋収縮を介した中葉の張力が腰椎中間位における分節的安定性に影響していると報告した。⑫⑬⑭

・Reeveらが腰椎骨盤の中間位姿勢はスウェウバック姿勢よりも腹横筋が活性化され、脊椎安定性に好影響を与えると報告している。このことからも腹横筋を効率的に再教育するうえで、ニュートラルポジションの維持は常に念頭に置かなければならない。⑮

外腹斜筋内腹斜筋・腹横筋といった筋群を、腹壁を引き込まずに収縮させるアブドミナルブレージングの方が、腹圧が上昇すると報告されており⑯、安定性向上につながるといわれている。

・腹横筋は一つの筋であるため、両側性に収縮性と考えられるが、回旋運動時に腹横筋の筋放電量に左右差が認められたという報告や、腹横筋活動開始のタイミングに左右差があるという報告もあり、結論に至っていない。また臨床的にも片側性の腰痛があるアスリートや、骨盤アライメントが不良であると一側性に収縮が低下する症例を経験することがある。⑰

・腹横筋はシットアップよりも腹部引き込み運動(以下、ドローイン)の方が選択的に活動すると報告されており、ドローイン時の腹横筋の緊張を触診にて評価する。触診位置は上前腸骨棘から約2cm内側が外腹斜筋の影響を減少させて評価できると考えらえる。⑰

引用文献

①著者 中村隆一ら:基礎運動学 第6版,2009

②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐下肢・体幹,2007

③福林徹 蒲田和芳 監修:骨盤・股関節・鼠径部のスポーツ疾患治療の科学的基礎,2013

④Urquhart dm,barker pj,hodges pw,story ih,briggs ca:regional morphology of the transversus abdominis and obliquus internusand adbominis nuscles.clin biomech.2005;20:233-41.

⑤ Urquhart dm,barker pj,hodges pw,story ih,briggs ca:regional morphology of the transversus abdominis and obliquus internusand and externus abdominis nuscles.clin biomech.2005;20:233-41.

⑥Richardson ca,snijders cj,hides ja,demen l,pas ms,storm j:the relation berween the transversus abdonubus musckes,sacroiliac,and low back pain.spine.2002;27:399-405.

⑦vleeming a,pool-goudzaarg al,stocckart r,vanwingerden jp,snijders cj:the posterior layer of thoracolumbar fascia.its function in load transfer from spine to legs.spine(philea pa 1976).1995;20:753-8.

⑧barker pj,briggs ca,bogeski g:tensile transmission across the lumbar fasciae in unembalmed cadavers:effects of tension to various muscular attachmcnts.spine(phila pa 1976).2004;29:129-38.

⑨macdonald da,Moseley gl,hodges pw:the lumbar multifidus:does the evidence support clinical beliefs? Man ther.2006;11:254-63.

⑩hides j,Stanton w,mendis md,sexton m:the relationship of transvcesus abdominis and lumbar multifidus clinical muscle tests inpatients with chronic low back pain.man ther.2011;16:573-7.

⑪編集 永井聡 対馬栄輝:股関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2021

⑫tesh km.etal the abdmial muscles and vertebral stability spine(phila pa 1976).12(5)201-508.1987.

⑬hodges o.et al intervertebral stiffness of the spine is increased by evoked contraction of transversus abdominis and the diaphragm.in vivo porcine studies spine(phila pa 1976).28(23) 2594-2601.2003.

⑭ Barker PJ, et al: Effects of tensioning the lumbar fasciae on segmental stiffness during flexion and extension: Young Investigator Award winner. Spine 31:397-405, 2006

⑮reeve a.et al:effects of posture on the thickness of transversus abdominis in pain-free subjects man the.14(6) 679-684.2009.

⑯tayashiki l.et al:tntra-abdominak pressure and trunk muscular activities during abdominal bracing and hollowing.int j sports med,37:134-143.2013.

⑰片寄正樹 編集:腰痛のリハビリテーション リコンディショニングーリスクマネジメントに基づいたアプローチー,2011

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