サッカーでよく聞く「インステップキック」
足でボールを扱うことを最大の特徴とするサッカーにおいて、キックは最も重要な技術の一つであるといえます。
特にインステップキックは、競技中かなりの頻繁に用いられるキックであり、「強さ」が主な目的となるキックです。
またインステップキックは、ボールの速度を幅広く蹴り分けることができるキックでもあり、シュート、ロングパス、アーリークロス、素早いグラウンダーパスなどプレーによって使い分けのできる発展性の高いキックとなっています。
シュートやロングパス、アーリークロスなどの場面で多用されるキック方法です。
【インステップキックとは】
<キックの特徴>
足関節を最大底屈位した状態で、足の甲を使ってボールを蹴るキックです。
威力の強いキックが可能で、ロングバスやシュートなどの用いられることが多いです。
また類似したキックとしてインフロントキックがありますが、これは母趾の付け根あたりから足の甲の内側で蹴るキックで、インステップ同様強力なキックが可能となります。
インフロントキックはコーナーキックやフリーキックなどボールにカーブをかけたい時に適したキックであり、厳密にいうとインステップキックとは異なります。
<キックフェーズ(位相)>
サッカーのキック動作は、蹴り脚に注目して分けて考えると理解しやすいです。
[バックスイング期(TO~MHE)]
足趾離地(TO)から蹴り脚股関節最大伸展(MHE)まで
[準備期(MHE~MKF)]
蹴り脚股関節最大伸展(MHE)から蹴り脚膝関節最大屈曲(MKF)まで
[加速期(MKF~BI)]
蹴り脚膝関節最大屈曲(MKF)からボールインパクト(BI)まで
『中村康雄:熟練者・未熟練者におけるインステップキック動作解析,バイオメカニズム 20巻,2010より引用』
キックを時系列でみると、上位関節からの運動連鎖によってスピードを生み出してキックが行われていることがわかります。
【強いインステップキックに必要な能力】
<スキルの存在>
・同一の脚パワーであっても経験者は未経験者よりも高い速度のボールを蹴ることが分かっている。(浅見ら)
また
・蹴り脚のスイングスピードとボールのスピード間に相関を認め、熟練者は未熟練者と同じスイングスピードであっても、高いボールスピードのキックができる。(戸苅ら)
さらに
・ボールに与えられたエネルギー量とキックのエネルギー需要量の比から効率を求め、キックの最大効率は熟練者においては最大ボールスピードの70~75%で得られ2 .8%であること、未熟練者においては80~85%の速度で得られ1.8%であることを報告しています。(浅見)
このことから、ボールの蹴り方(技術的要因)によって、ボールスピードが変化することが分かります。
なので、筋力をつけるだけでなく、そもそも「キックの練習」をしなければ、根本的に「強いインステップキック」は出来ないといってもいいでしょう。
まぁあくまで未熟練者に限ってですが…
<腰椎伸展の重要性>
[熟練者は未熟練者に比べ、準備期に腰椎が伸展している。]
[熟練者は未熟練者に比べ、脚の屈曲モーメントのピークが有意に大きい。]
[熟練者は未熟練者に比べ、常に床反力の値が大きかった。]
(中村ら)
このことから、熟練者が準備期に腰部を伸展しているのは、上体が流れないように、軸足をしっかり踏み込んで、後方に体重を乗せてボールを蹴ろうとするためと考えられます。
また腰部を伸展することにより、バックスイングを補助し、蹴り脚の股関節屈曲モーメントを大きくするという戦略でもあると考えられます。(ストレッチショートニングサイクル:SSC)
決して「脚」だけで蹴るのではなく、「腰から振って」蹴るというイメージが重要ということですね。
「大腰筋」という股関節を曲げる筋肉は腰骨の腰椎にくっついていますので、
選手への指導の際には、「脚はみぞおちから生えているイメージを持って蹴ってみて」などと説明しています。
私は、腰部の伸展により、この「大腰筋」を適度に伸張し、蹴り脚のエネルギーに変換しているのではないかと考えています。
<ダイナミックな体幹筋群>
また
[熟練者は未熟練者に比べ、より大きいMHE後の腰部の回旋モーメントが認められた。(中村ら)]
このことから、熟練者は腰を鋭く回旋させ、腰部から蹴り脚に運動を伝えていると考えられます。(腹斜筋、大腰筋をフルに使っている状態)
よく「ブラジル人はキックは腰のキレが違うなぁ~!」っていうのはこれのことかもしれませんね。
<スタティックな体幹筋群>
さらに
[腰部のモーメントは、熟練者、未熟練者ともに、蹴り脚の腰部回旋モーメントを打ち消す対側の腰部回旋モーメントが発揮されたが、腰部の回旋角度はゼロに近い値を示した。(中村ら)]
とのことです。
これは、蹴り脚の腰部回旋モーメントを相殺する対側への腰部回旋モーメントを生み出すことにより、腰椎の安定をもたらしていると考えられます。
※剛体の原理からしても、中枢が安定しているほうが末梢は効率よく動かすことができると考えらえ、体幹の安定(中枢)は蹴り脚(抹消)のパワーを高めると考えられます。
つまり、強いキックをすればするほど、体幹の安定性が必要になるともいえますね。
逆に言うと、体幹の安定が得られないと強いキックはできないともいえます。
「体幹」って重要ですね~!
これはプランクだけでは鍛えられなそう...たぶん!笑
<軸足からの体幹を介した蹴り脚におけるエネルギーの伝達>
[ボール速度とスウィング速度には相関があり、スウィング速度には腰の回転が1つの要因として考えられるとしている。この腰の回転をスムーズに行う要因として支持足の固定を挙げている。(望月ら)]
→床反力を軸足の固定を通じて、腰部(体幹部)へエネルギーを伝搬させていることが考えられる。
また
[インステップキック動作において、床反力、関節モーメント、求心力に依存するエネルギーが、体幹、軸足、蹴り脚を介して近位から遠位へとエネルギーを移行することで、蹴り脚の足部のエネルギーを生成していることを示した。(内藤ら)]
これらのことから、軸足の固定によって得られた床反力エネルギーを体幹部でスムーズに腰部回旋モーメントに変換し、蹴り脚の足部へとエネルギーを伝達していると考えられらます。
これが、先にも述べた<スキルの存在>の正体なのではないでしょうか?
<軸足の内転筋、内旋筋の重要性>
[準備期において、軸足の股関節伸展モーメントと内旋モーメントのピークが未熟練者より熟練者の方が有意に大きかった。(中村ら)]
これについては私の見解ですが、
「蹴り脚の振り」によって生じる骨盤の対側回旋モーメントや上体が軸足側へ流れてしまうのを防ぐため、
「軸足」を地面に固定する際に大腿骨を相対的内転、内旋位に保持するためと考えられます。
つまり「強いインステップキック」には、軸足を固定しておくだけの股関節内転、内旋筋群のスタティックな働きが重要と考えられます。
サッカー部の子って結構「ガニ股」多くないですか?
この「ガニ股」は、内転筋が上手く使えず伸びてしまってる状態ともいえます。
そのため、
・股関節内転筋、内旋の筋力トレーニング
・内転、内旋を制限している股関節外転筋群と外旋筋群のストレッチ
がとても重要です!
<軸足の中殿筋の重要性>
[加速期において軸足の股関節外転モーメントは、未熟練者に比べ熟練者の方が大きい傾向にあった。(中村ら)]
これは、加速期には軸足に荷重が加わり、倒れこむように軸足の大腿骨に内転モーメントが働くことが予測されます。これに抗すように軸足の股関節外転モーメントが働いているのではないかと考えられます。
そのため、「加速期の軸足」には股関節外転筋群の主力をなす「中殿筋」の働きが重要なのではないかと考えています。
この場合のトレーニングは、「中殿筋」が地面に足がついた状態で発揮されないとあまり意味がないです。
一般的な横になって足を外側に持ち上げる筋トレもいいですが、
私がオススメするのはこちら↓
<軸足の足関節の柔軟性>
[軸足傾斜角度(足関節)の最大値は、未熟練者に比べ熟練者の方が有意に大きかった。(中村ら)]
これは、より水平方向の腰の回旋モーメントを使うために、キック時に軸足のを傾斜させ、蹴り脚の姿勢の安定を得ているのではないかと考えられます。
つまり、蹴り脚に「腰の回旋力」を付加するために、足関節の外反方向の可動性とそもそもの背屈可動域が必要と考えられます。
最低限、和式便器で用を足すのを辛いと感じていてはいけませんよ?笑
ヤンキー座りが余裕でできるくらいになりましょう!笑
そのたえに、しっかりとふくらはぎのストレッチをして柔軟性を獲得しておきましょう!
【まとめ】
強いインステップキックを獲得するには、
・「腰椎伸展」をしっかり作る
・体幹を屈曲、回旋させて「腰の回旋モーメント」を生み出す「ダイナミックな体幹」を鍛える
・蹴り脚の素早いキックを生み出す「腰椎の固定」ための「スタティックな体幹」を鍛える
・「準備期」の軸足の安定に必要な「内転筋」、内旋筋の筋力アップ」と「外転筋と外旋筋のストレッチ」
・「加速期」の軸足の安定に必要な「中殿筋の筋力アップ」
は重要であると私は考えています。
インステップ一つとってもこんなにもいろんな運動能力が必要だとは、
調べてみて改めて痛感いたしました。
皆さんの為になれれば幸いです。
<参考資料>
コーチとプレイヤーのためのサッカー医学テキスト
スポーツ理学療法学 競技動作と治療アプローチ
苅山 靖:サッカーのインステップキックにおけるボール速度に影響する支持脚の筋力およびジャンプ能力 助走速度の相違に着目して
後藤幸弘:サッカー技術の指導に関する基礎的研究(Ⅰ),スイングスピードとボールスピードを標としたインステップキックの筋電図的分析,スポーツ教育学研究 第7巻 第2号 昭和62年11月
戸苅晴彦ら,サッカーのキネシオロジー的研究(1),体育学研究,16(5),1976
中村康雄:熟練者・未熟練者におけるインステップキック動作解析,バイオメカニズム 20巻,2010
望月知徳ら,サッカーのインステップキックにおけるボール速度と支持脚との関係性とその基本的役割,中京大学体育学論叢 43-1,31-38 2001
内藤耕三ら,サッカーインステップキック動作におけるセグメントエネルギーの生成および伝達に関する入出力機構の解析,日本機械学会シンポジウム講演論文集,07-24,374-379(2007)
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