スポーツや運動に影響を与えるという
「過剰な力」や「過緊張」などは、
一般に、動きを覚えたり、スキルを高める上でネガティブな印象を受けますよね。
今回は「運動感覚と緊張」について述べていきたいと思います。
【緊張とは】
「緊張」とは、
大きく
「身体的な緊張」
と
「精神的な緊張」
があります。
今回は、この緊張が運動やスポーツパフォーマンスなどにどのような影響を及ぼすかを述べていきたいと思います。
【運動感覚とは】
運動感覚とは、皮膚、筋、関節や腱などのさまざまな器官からの求心性入力が統合された結果もたらされる印象や体感と捉えておきましょう。
なんだか難しいですね。
別の言い方をすれば、
身体の位置関係や動きに対する「意識」や「気付き」とも言えます。
細かく説明すると、
運動感覚は、複数の感覚を包含しており、
①関節位置および四肢または体幹の動きなどの感覚(位置覚、運動覚)
②努力感、筋の張力、重量そしてスティフネスなど筋の力に関連した感覚(力覚)
③筋収縮のタイミングに関する感覚
④姿勢および身体図式の大きさの感覚
などに分けられます。
これまでに、運動感覚が運動パフォーマンス(運動の正確さ、求められる技能の高さ、運動成績など)に影響することは、さまざまな研究で明らかにされてきています。
したがって、運動感覚に障害があれば、「新しい運動を学習することが困難になる」、「今まで出来てきた動きが出来なくなる」など、スポーツなどの領域における運動機能の向上おいてもネガティブな影響を及ぼす可能性があると考えられます。
【筋紡錘】
運動感覚に大きな影響を及ぼす要因の1つとして、「筋紡錘」という組織が挙げられます。
「筋紡錘」とは、関節の位置の理解(位置覚)、関節の運動の理解(運動覚)するのに受容器として重要な役割を果たします。
筋紡錘は、
一次終末が、「筋長」および「筋長の変化速度」に応答し、「四肢の位置あるいは運動の知覚」に寄与しているとされています。
それに対して、
二次終末が応答するのは筋長のみであり、運動ではなく「関節の位置」に対して感受性があるということがいえます。
その筋紡錘は、fusimotor systemと呼ばれる
自身の運動を制御される経路を有しています。
これは随意的に骨格筋を収縮させると同時に賦活する回路であり、筋紡錘の伸張による求心性入力の発射頻度を変化させる働きがあります。
運動感覚に対する筋紡錘の寄与は、錐外筋および錐内筋の受動的張力に依存し、
その受動的張力は筋の収縮状態や長さ、あるいはthixotropy(チキソトロピー:時間依存性や粘性)により変化すると言われています。
※筋チキソトロピー
筋肉がずり応力を受け続けると粘度は低下し、静止していると粘度は次第に上昇し固体上に変化する性質のこと。
静止している筋においては、アクチンとミオシンが固定された状態におかれ、クロスブリッジが強固になります。
この状態から筋長が短くなると、筋の受動的張力は低下すると言われ、
この場合、筋紡錘はたるんだ状態となり、筋紡錘の発射頻度は低下します。
逆に筋収縮により筋の受動的張力が適切な状態に保たれると、発射頻度は高くなります。
つまり、筋がある時点までにおかれていた状態(筋コンディション)によって、筋紡錘の感度は変化すると言えます。
このことから、筋紡錘の感度を考えた時には、「適切な筋収縮」によりある程度の受動的張力が保たれている条件下では、筋紡錘の感度が高くなることがわかります。
総じて、
「過緊張」や「低緊張」の状態であると、筋紡錘の感度は低下し、「適切な筋の緊張(収縮度合い)」では、筋紡錘の感度は高まると言えます。
「適切な筋の緊張(収縮度合い)」を保つ事が出来れば、
関節の位置の理解(位置覚)、関節の運動の理解(運動覚)も適切に感受する事ができ、パフォーマンスの低下は防げると考えられます。
【筋収縮が及ぼす運動感覚への影響】
〈運動覚〉
運動覚とは、関節覚の中でも、「手や足の関節の動きや方向を感じ取る感覚」を運動覚と呼びます。
検査は、手足の指や四肢の単関節を、
① 動かしたことが分かるか
② どの方向に動いたか
を聴取することで評価します。
筋収縮は、運動覚の精度に対しても影響を及ぼすと言われ、Teylor and McCloskey (1992)の研究では、安静時の筋に比べ、筋収縮した状態の場合では運動覚閾値が低値になることを示したとのことで、
この結果から、適切な量の筋収縮は運動覚の精度を高めるというポジティブに影響することを意味していると捉える事が出来ます。
また、Wiseらが報告した実験では、筋収縮のコンディショニングによる筋紡錘の応答の変化が運動覚の精度に影響することが明らかにされ、運動覚の検査中に働筋と拮抗筋の同時収縮を行うと、運動覚の精度が低くなるという結果を示しています。
〈位置覚〉
位置覚とは、関節覚の中で、「手や足の関節がどのような位置にあるか感じる感覚」を位置覚と呼びます。
検査は、四肢を動かして、反対側の四肢で真似をさせることで、位置覚の程度を評価することができます。
位置覚も運動覚同様に、働筋と拮抗筋の同時収縮にて低下する事が分かっています。
〈緊張感〉
関節運動の知覚は、働筋と拮抗筋における筋紡錘からの求心性入力が演算された結果として意識にのぼると言われています。
また大山らの研究では、精神的ストレスは交感神経活動亢進を伴って筋緊張を亢進させると示唆されたと述べており、
ストレスによる筋緊張亢進は,Cannonのよって提唱された緊急反応の一環であり、動物がストレス状況下で攻撃するか逃避するかを判断する際に、全身の筋肉が適応し対処しようとする状況とされています。
すなわち、
「緊張感は全身の筋肉に対し同時収縮した状態」と考える事が出来ます。
この状況では、適切な運動感覚は得れずパフォーマンスは低下しますよね?
〈同時収縮のデメリット〉
働筋と拮抗筋の同時収縮は、「関節を固定化」してしまいます。
つまり、自ら関節を固めてしまい動かせなくなります。
それは滑らかな身体運動は制限されてしまいますよね?
さらに、
・スポーツ初心者の無駄な力は上級者と比べ、20%以上の最大筋出力を発揮してしまっている。
・あるスポーツ種目のレギュラーと準レギュラーでは、準レギュラーの方が筋活動が5%高いと報告されている。
これらのことから、
同時収縮だけでもエネルギー消費は大きいのに、さらに同時収縮による関節の固定により、同時収縮が全身的に波及することで、さらなるエネルギーが消費される事が考えられます。
上級者→滑らかな身体運動→最小限のエネルギー消費
初心者→ぎこちない身体運動→過剰なエネルギー消費
ということが成り立ちます。
【まとめ】
以上のことから、
適切な働筋の求心性収縮と拮抗筋の遠心性収縮が可能となれば、
適切な運動覚と位置覚の情報が得られ、
・滑らかな身体運動
・運動学習の向上
・急な外力への反射、反応的対応の向上
などが得られると考えられます。
一方、
上手く力が抜けず、ガチガチに働筋と拮抗筋を同時収縮していると、
運動覚と位置覚の情報は低下し、
・ぎこちない身体運動
・いつまでも新しい運動が出来ず運動学習が遅延する
・急な外力に対し、身体を固め、バランスを崩す
などの現象へ繋がる可能性があると考えます。
そのために、まず同時収縮を起因させる
「精神的緊張」、「心理的負荷」を最小限に抑えることが必要になります。
高いパフォーマンスを発揮するために、
「緊張を抑える」
あるいは、
「緊張をしない」
ことを心がけ、
「弛緩力」
「脱力」
を身につけて
「最小限の筋活動」
で、
「最高のプレー」
をしよう!
参考資料
・金子文成:筋収縮に影響される運動感覚,バイオメカニズム学会誌,Vol. 35,No. 3(2011)
・大山史朗:精神的作業負荷が立位時の体幹動揺に及ぼす影響心身健康科学の視点からの検証,心身健康科学14 巻1 号17〜25(2018 年)
・木塚朝博:特集に寄せて「動きを阻害する過緊張や無駄な力」バイオメカニズム学会誌,Vol. 35,No. 3(2011)
・Cannon WB:Stress and strains of homeostasis. Am J Med Sci. 189:1-14,1935
・Rymer,W.Z. and D’Almeida,A.: Joint position sense: theeffects of muscle contraction,Brain,103,1-22,(1980)
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