【サッカーにおけるキック力とは】

サッカーにおいて最も重要な要素の一つ

「キック」

シュート、パス、アーリークロス、フリーキック、パントキックetc

サッカーでは「キック」が無ければ試合にならないスポーツといえます。

また、ネイマール、クリロナ、ロベカルはなぜあんなに強いキックが出来るのか?

今回は、その多種多様な「キック」に重要な「キック力」について述べていきます。

【ボールの初速度=キック力】

強烈な弾丸のような高い速度のシュートを打つためには、ただ力いっぱい蹴ればいいのでしょうか?
私は経験者ですし、運動学的に考えると
簡単に「YES!」とは言えません。
それには、身体資源を最大限に生かし、大きなエネルギーを効果的にボールに伝達する必要があります。
言い換えると、「合理的な身体操作」によって、小柄な選手でも大きな体の選手と同等かそれ以上のシュートやキックが可能ともいえます。

また、ロングボールやロングシュートなど、
遠くにボールを飛ばす場合でもボール速度は重要です。
基本的には、ボール速度と飛び出し角度によってボールの飛距離は決まるのと言われています。
したがって、「ボールの初速度=キック力」と考えることもできます。

物理的な原理からみると、
キック後のボールの速度は、
・蹴り足の速度
・ボールと蹴り足の反発係数(跳ね返りの比率)
・ボールの重さ
・蹴り脚の重さ
で決まるといわれています。

※蹴り足→足首より下の部位、蹴り脚→腰より下の下肢全体

しかし、「ボール」と「蹴り脚の重さ」はほぼほぼ一定で変わることはないので、

大きなパワーを生み出すには、
「蹴り足の速度」を高め、そのパワーを無駄なく(高い反発比)でボールに注入するかが、
「キック力」のポイントになります。

つまり、「蹴り足」をいかに速く動かすかが重要で、そのために「身体操作」を工夫する必要性があるともいえます。

「膝下を速く振り抜いて!」というアドバイスはあながち間違いでは無いかもしれませんね。

【全身運動でキックする】

インステップキックに関する多くの研究においては、
ボール速度と蹴り足の速度には直線的な相関関係があることが認められています。
つまり、蹴り足の速度が2倍になれば、ボール速度も単純に2倍になると考えられます。

静止したサッカーボール、つまり秒速0mのボールをキックして秒速30mに加速するのに、わずか0.01秒しかかからないことがわかっています。
では、キッカーはどのくらいのパワー(仕事率)を発揮しなくてはならないのかが気になりますよね?

計算すると、ボールの質量を0.45gとすると、20250Wとなるそうです。
よくトレーニングされた人間の筋肉1kgあたりのパワーを250W程度と仮定すると、
片脚の質量は81kg程度の筋肉が必要な計算になってしまいます。
しかし、体重81kgの人間の片脚の質量は、軟骨組織を含めてもせいぜい14kg程度なので、
片脚の筋にの持つエネルギー供給能力だけでボールを秒速30mに加速させることは不可能といえますね。

つまり、大きなボールの速度を得ようとするには、大きな筋肉のある胴体や他の部位からのエネルギーの伝達が必要不可欠です。
実際、大腿部を動かないように固定して、膝の筋肉だけでボールをキックすると、その速度は秒速15mにさえ達しないという研究もあります。

ここには、筋肉以外の全身運動でのエネルギー伝達メカニズムが存在しています。

これが「キックのスキル」ともいえますね。

【大きなパワーの秘訣は鞭】

一流選手のインステップキックにおいては、
まず、
①最初に股関節速度のピークがあり、
②次に膝関節、
③最後に足関節の速度がピークを迎える
という結果が出た研究があります。

このことから、直線的につながったいくつかの関節が連鎖的にかかわり、根幹部のエネルギーを末端部に伝達するメカニズムが働いていると考えられます。
この運動メカニズムは、
「鞭の運動」
「カラ竿の動き」
「キネマティックリンク」
「キネマティックチェーン(運動連鎖)」
などと呼ばれています。

このエネルギー伝達の運動原理をわかりやすく把握するために、鞭の運動を考えてみましょう。

実際の鞭の場合、
まずはじめに鞭の握りの部分に力を加えて加速して、鞭の運動エネルギーを与えるのです。
次に、握りの部分を止めます。手に力がかかるが、手は静止したまま動かない。つまり鞭は手に対して仕事をしていないといえます。
手が止まった後の鞭の運動エネルギーはほぼ保存されると考えられるので、鞭は手元の方から連続的に静止していきます。
つまり、運動エネルギーが次々と先端側の質量の小さい部分に移動していくので、その結果、鞭の末端部の非常に質量が軽い部分は、なんと音速を超えるとのことなのです。

これはウルトラマンの飛行移動速度に匹敵します。
(昔、空想科学読本で読んだ気がする…笑)

まぁ、もちろん人間は鞭のような連続体ではないですが、
このメカニズムを利用して蹴り足の速度を上げることができると考えられるのです。

また人間の筋肉は、大きな力を出す場合はゆっくり収縮し、逆に早い収縮の場合は小さい力しか出せないという特性を持ちます。
したがって、まず体幹周りの大きく重い筋群を低い速度で動かして大きなエネルギーを発生させ、
順次小さい筋群を高い速度で動かしていくことは、筋の生理学的特性にも合っているともいえます。

実際、インステップキック時に発揮されている筋力自体は、大きな筋群がある股関節が圧倒的に大きく、膝関節、足関節の順で小さいということがわかっています。

しかし、助走も含めて大きな筋肉で生み出したエネルギーを
大腿部(腰から膝までの部分)、下腿部(膝から足首までの部分)、足部へと大きな部位から小さい部位へ鞭のように順序よく伝え、効果的にインパクト部の速度を大きくしていると考えられます。

キックスキルの高い一流選手ほど、この鞭運動のようなメカニズムを使えているといってもいいのではないのでしょうか?

【パワーロスを減らすには】

いかに全身運動で大きなパワーを生み出すことが出来ても、そのパワーをボールに伝達できなくては大きなボール速度を得ることはできません。

物理的に言えば、「大きな反発比でボールをインパクトしなくては、大きなボール速度を得ることが出来ない」といえます。

例えば、空気がいっぱいつまったボールは内部気圧が高く跳ね返りも大きいので、反発比が大きくなります。
逆に空気の抜けた柔らかいボールは内部気圧も低く跳ね返りも小さい。

しかし、サッカー競技に用いられるボールの規格は、FIFAの規則で決まっていて一定です。

したがって、インパクトする蹴り足の状態や特性が、大きな反発比を得るために重要といえます。

高速VTRでボールキックを撮影すると、インパクト時には、ボールとともに足関節を中心とした蹴り足も変形していることが分かっています。

骨や筋、靱帯、関節など人体組織のほとんどは粘弾性(物体に外力を加えると変形するが、力を除くと元の形に戻る性質)を持つと考えられ、こうした変形はパワーロスにつながってしまいます。

簡単言えば、
スポンジのような柔らかいバットでボールを打つより、金属の硬いバットでボールを打った方が飛ぶということですね。

つまり、大きな反発比を得るためには、インパクト時の蹴り足の変形を最小限に抑えることが重要で、そのためには、足部の筋を緊張させ、足関節などを固定させる必要があるといえます。

あくまでインパクト時です。

インパクト時以外で足部を緊張させ固めてたら、そもそも蹴り脚のスイングスピードを低下させるリスクがあるため、

あ、く、ま、でインパクト時のみです。

【足の硬いところ、柔らかいところ】

足のインステップ部を上から触れてみるとわかりますが、硬い部分と比較的柔らかい部分が存在します。
インステップ部の解剖学的構造をみると、足根骨や中足骨付近が硬く、指先付近は比較的柔らかいことがわかります。

したがって、足根骨や中足骨付近でボールをとらえることが出来れば、
高い反発比でインパクトすることができ、
ボール速度を大きくすることが出来ると考えられます。

【最後に】

以上のようにキックスキルの高い一流選手は、
全身で大きなパワーを生み出し、
そのパワーを最大限ボールに達成することによって、
強烈なシュートを放つことが出来ている
と考えられますね。

また一流選手は、
体制が崩れた状況でもボール速度を高めるための技術的メカニズムを瞬間的に複合的に組み合わせ、
驚異的なゴールをあげています。

これには、キックスキルはもちろんですが、
それ以外の身体操作能力が必要になってくることは、
言わずもがな。

〈参考資料〉
浅井武:サッカーのファンタジスタの科学,光文社新書

古川勝弥ら:サッカーのインステップキック動作におけるボール速度と足部速度の関係性,第45回日本理学療法学術大会

笹代純平:サッカーインステップキックの助走角度の違いが軸脚の床反力と足部・足関節の関節運動にあたえる影響,第50 回日本理学療法学術大会

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