基本情報
起始① | 停止① | |
浅層多裂筋 | PSIS周辺 | L1棘突起 |
上部背側仙腸靱帯 | L2棘突起 | |
下部背側仙腸靱帯 | L3棘突起 | |
仙骨下部背面外側 | L4棘突起 | |
正中仙骨稜の両側 | L5棘突起 | |
深層多裂筋 | 2つ下位の乳様突起、椎間関節包 | 各棘突起 |
支配神経 | 脊髄神経後枝内側枝 | |
作用 | 伸展、同側側屈、対側回旋 |
関連情報
・脊柱の後方を支持する固有背筋の一つで、棘突起のすぐ両側に位置する筋長の短い筋肉である。②
・多裂筋は腰部で非常に発達しており、胸部より上の多裂筋の筋腹は、はなはだ小さい。特に下位腰椎では非常に発達している。②
・中位腰椎レベルの多裂筋と脊柱起立筋との割合はほぼ1:1、下位腰椎レベルでは多裂筋の占める割合が80%に達する。②
・両側が作用すれば体幹を伸展する。片側が作用すれば、同側への側屈と対側への回旋に作用する。②
・仙骨後面を繋ぐ多裂筋は、腰仙椎間の安定化に作用し、上後腸骨棘、背側仙腸靱帯を繋ぐ線維は仙腸関節の安定化に関わり、乳様突起ならびに椎間関節包を繋ぐ椎間関節の安定化に関与する。②
・慢性腰痛の病態の一つに、腰部コンパートメント内圧上昇が原因の腰痛がある。②
・椎間関節由来の腰痛では、脊髄神経後枝内側枝を介した反射により、同レベルの多裂筋に攣縮が生じる。②
・仙腸関節の安定化に関わる多裂筋の持続的筋攣縮例では、背側仙腸靱帯の間接的緊張の増加により、仙腸関節ストレステストが陽性となる場合が多い。②
・椎間板ヘルニアに対する椎弓間髄核摘出術(LOVE法)後の経過において、長期にわたる多裂筋の浮腫状態がMRIで観察される場合がある。このような例では、術後残存腰痛を訴える例が多い。②
・関連疾患:慢性腰痛、腰部コンパートメント症候群、腰部脊柱管狭窄症など。②
・多裂筋は体幹回旋時に活動することが報告されているほか、腰椎棘突起に起始をもち、仙骨及び寛骨に停止することから、仙腸関節の安定性に寄与することが考えられる。③
・Moseleyらは多裂筋の予備的活動について報告しており、上肢挙上時に三角筋の滑動に先行して筋活動がみられ、仙腸関節を含む体幹の安定化が上肢運動の際に重要であると考察した。⑤
・多裂筋は縫線で胸腰筋膜にも付着する。縫線は仙腸関節包を固定する作用を持つ。⑥⑦
・MacDonaldらは、多裂筋についてその深層線維が腰椎の安定化に関与、そして腹横筋と同調して働くと報告した。また、Hidesらは、多裂筋の収縮能力は腹横筋の収縮能力に影響すると報告した。以上より、腹横筋と多裂筋の重要性は明らかである。③⑧⑨⑩
・多裂筋の機能として腰椎の回旋や伸展の他に、腰椎の安定化に重要な役割を果たすと考えられている。多裂筋の緊張が短く付着面積が大きいため、力の発揮に適している。④⑧
・多裂筋は機能的に浅層と深層に分けられる。浅層は3~5椎間を結び、深層は隣接する2椎間を連結する。そのため多裂筋の深層は腰椎の分節的安定化に適している。④⑨
・Kalichmanら21)は、CTを用いて多裂筋を含む脊柱起立筋の萎縮と器質的変性の関連を評価した。その結果、筋萎縮と変性(椎間板厚の減少、椎間関節の変形性関節症、腰椎分離症、腰椎分離・すべり症)は関連したが、腰椎の有無とは必ずしも関連しなかった。よって多裂筋が腰椎、椎間板の変性に関連することが示唆された。④⑩
・多裂筋は腰背部筋のなかで最内側にあり、その多くは棘突起から放射状かつ分節的に広がる線維で構成される。その深層線維は椎間関節の関節包に付着することで運動中、関節内に挟み込まれるのを防ぐ役割がある⑫
・多裂筋の他の棘間筋、横突間筋などと協同し、脊椎運動時に椎間関節の滑走性を調整することで、そこにかかる負荷やストレスをコントロールすること、腰椎前弯をコントロールし、力を均等に分散させることで脊椎安定性に寄与するといわれている。⑬
・多裂筋の表層線維は運動中心軸から距離があり、線維側が長く、体幹長軸に対して成す角度が小さいため、脊柱伸展モーメントを発揮しやすい。また深層線維は運動中心軸に近く線維足が短いため、脊柱の安定化に働きやすい。⑭
・多裂筋は一側性の分節的腰背部痛がある場合、障害側の多裂筋の健側より断面積が小さく、活動が低下すると報告されている。⑮
引用文献
①林典雄 監修,鵜飼建志 編著:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 下肢・体幹 第1版,2019
②林典雄 執筆:改訂第1版 運動療法のための機能解剖学的触診技術‐下肢・体幹,2007
③福林徹 蒲田和芳 監修:骨盤・股関節・鼠径部のスポーツ疾患治療の科学的基礎,2013
④福林徹監修,蒲田和和芳編集:脊柱疾患のリハビリテーションの科学的基礎,第1版,2017
⑤Moseley gl,hodges pw,gandevia sc:deep and superlicial fiders of the lumber multifidus muscle are differentially active during voluntary arm movements.spine.2002;27:e29-36.
⑥vleeming a,mooney v,stoeckart r:movement,stability and low back pain:the essential role of the pervis,1st.ed.,Churchill livingstone,1997
⑦vleeming a,mooney v,stoeckart r:movement,stability and lumbopelvic pain:integration of research and therapy,2nd.ed., Churchill livingstone,2007
⑧ward sr,kim cw,eng cm,Gottschalk lj iv,tomiya a,garfin sr,Lieber rl.architectural analysis and intraoperative measurements demonstrate the unique design of the multifidus muscle for lumbar spine stability.j bone hoint surd am.2009;91:176-85.
⑨Moseley gl,hodges pw,gandevia sc.deep andsuperficial fibets of the lumber multifidus muscle are dififerentially active durind voluntary arm mobements.spine(phila pa 1976):2002;27:e29-36.
⑩kalichaman l,hodges p,li l,gueermazi a,hunter dj.changes in oaraspinal musckes and their association with low back painand spinal degeneration:ctstudy.tur spine j.2010;19:1136-44.
⑪編集 成田崇矢:脊柱理学療法マネジメント 病態に基づき機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く,2021
⑫bonguk n clinical and radiological anatomy of the lumbar spine.5th edition.p93-116.Churchill livingstone.Edinburgh.2012
⑬Richardson ca et al:therapectic exercise for lumbopelvic stabilization.a motor control approach for the treatment and prevention of low back pain.2nd edition.p59-73.Churchill livingstone.Edinburgh.2004
⑭三木貴弘編集:痛みの理学療法シリーズ,非特異的腰痛のリハビリテーション,2018
⑮片寄正樹 編集:腰痛のリハビリテーション リコンディショニングーリスクマネジメントに基づいたアプローチー,2011
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